事業ローンは総量規制の対象外?
ビジネスを行っていく中で、まとまった資金が必要になるタイミングはあります。個人のキャッシング、カードローンを利用した人の破産を予防するために設立された総量規制ですが、事業ローンも対象になるのでしょうか。
そもそも総量規制とはどのようなルールなのか、いろいろな金融機関が扱う事業ローンと総量規制にはどんな関係があるのかを見ていきます。
総量規制とは
まずは、総量規制の定義からおさらいしておきましょう。総量規制とは、平成22年の貸金業法改正で始まったルールのことです。個人の借入を原則年収等の1/3に制限、返済しきれないほどの多重債務を負うことがないようにしています。
制限を受ける金額については、1社の借入残高ではなく、対象になる借入の総額が上限の範囲内に納まっているかを判断されます。
たとえば、年収300万円の人だったら、全ての対象業者を合わせて「300万円×1/3」の「100万円」までしか借入はできません。すでに40万円のローン利用がある状態で新しい会社に申込を行っても、残りの60万円の範囲でしか他社と契約できないことになります。
個人の借入残高データは指定信用情報機関に保管されていて、現状は筒抜けです。他社からの借入を申告することなく申込を行っても、すぐに気付かれてしまいます。
そもそも貸金業者とは
そもそも論で貸金業者の範囲を理解しておかないと、ルールの制限範囲を読み違えます。総量規制は貸金業法の中で定められたルールですから、貸金業者にしか影響を与えません。
貸金業者とは、消費者金融やクレジットカード会社を指します。銀行や信用金庫も融資としてお金を貸してくれますが、貸金業者ではありません。
もっと厳格に言うと、クレジットカード会社でもキャッシングだけが貸金業者としての営業です。ショッピングには割賦販売法が適用されることになるため、貸金業者向けの法律である貸金業法の範囲から外れます。
変わったところだと、お金を借りたい人・投資家を結びつけてくれるソーシャルレンディングサービスや市民バンク(NPOバンク)も貸金業者の範囲です。
市民バンクの例としては、長野県の「NPO夢バンク」や石川県の「ピースバンクいしかわ」などがあげられます。「非営利だから貸金業者ではない」という理屈にはならないので気をつけましょう。
総量規制における年収等の計算方法
借入が年収等の1/3までに制限されると言いましたが、どんなものが収入になるのかを見ておきましょう。
個人事業主なら、事業所得・不動産の賃貸収入・年金などが入ります。退職金や個人的な資産の譲渡により得た収入、利子や配当による収入は含まれません。
1つの貸金業者から50万円超の借入をする場合もしくは貸金業者からの借入を全て合計した金額が100万円を超える場合、年収等が分かる書類を提出するように求められます。個人事業主だったら、確定申告書や青色申告決算書、納税証明書などが求められるものと理解しましょう。
銀行の事業ローンは総量規制の対象外?
銀行は貸金業者に含まれないことは、前述の通りです。当然ながら貸金業法の総量規制の影響を受けることはなく、年収との兼ね合いを気にする必要はありません。
ただ、個人事業主が対象になる事業ローンが少ないところは検討するうえでネックになるポイントでしょう。一般的には審査基準がノンバンクより厳しくなるケースが多く、法人として申込をしても借入できないケースはあります。
ノンバンクの事業ローンは総量規制の対象外?
では、消費者金融やクレジットカード会社が扱っている事業ローンについてはどうでしょうか。総量規制が適用される契約は、個人向け貸付けに制限されます。
法人向け貸付けは適用されないルールになっているため、会社として契約する事業ローンについては問題なく対象外です。
個人事業主の契約は「個人向け貸付け」の範囲になりますが、事業用資金として借りるお金は総量規制の対象外とされています。
「事業用資金として」というところが大きなポイントになってきて、一定の条件を満たしたものしか認められないルールです。事業用資金として認められるための条件を確認しておきましょう。
事業用資金として扱うための条件
日本貸金業協会のホームページのQ&Aには、以下のように示されていました。
貸金業者が個人事業主に対し、総量規制を超える貸付けを行う場合は、事業計画、収支計画及び資金計画等に照らし、返済能力を確認する必要があります。
引用:http://www.0570-051-051.jp/contents/user/2-1.html
噛み砕いて解釈すると、次の3つの要件を満たす借入だけが総量規制対象外になるものと考えてください。
2. 事業計画書、収支計画書、資金計画書などを提出すること
3. 2で提示された内容から予測される返済能力に対して過剰な借入でないこと
条件をクリアできる範囲であれば、上限金額の制約はなくなります。提出する書類が多くて大変なようにも感じますが、実務的にはローン業者の定めるフォーマットに沿って、必要事項を記入していくだけにすぎません。
ローン業者の判断によっては、追加の書類を求められるケースもあります。必要書類の種類をよく確認、規程通りに提出しましょう。
法人名義で契約する際の注意点
法人の借入は総量規制の影響を受けないと言いましたが、経営者の連帯保証を求められることがあります。経営者個人として総量規制目一杯まで借入を行っていて信用状態に不安が残る状態だと、審査に影響する可能性も否めません。
可能な限り個人の債務をきれいにしてから資金調達を考えた方が審査落ちリスクを回避できます。法の制限を受けないことと実際に借入が許可されることは、全く別のお話です。
過去にキャッシングの滞納や債務整理を行った場合も審査に影響するケースがあります。今後の資金調達をスムーズに行うためにも、個人としてのカードローンの使い過ぎや返済遅延に気をつけましょう。
日本政策金融公庫の貸付は総量規制の対象外?
個人事業主、中小企業の資金調達で事業ローンと並ぶほど検討されやすい日本政策金融公庫は、総量規制の対象に入るでしょうか。
日本政策金融公庫の貸付には、日本政策金融公庫法が適用されます。貸金業法の管轄範囲ではないため、総量規制も対象外です。
日本政策金融公庫からお金を借りるメリットとして、創業時の資金調達先にできることあげられます。
厳格な審査が入るためきちんとした書類を用意しないと審査通過できないのですが、実績がない状態からでも事業を応援してくれる貴重な機関の1つです。
一般的な事業ローンより低金利となるケースも多く、無担保・保証人なしでの契約も可能とされます。お金が必要な期限までにある程度の猶予があれば、非常に有利な仕組みでしょう。
どのくらいの猶予を確保すれば良いのかですが、最低でも1ヶ月は見たいところ。公的サポートの色合いが強いだけに柔軟な対応は期待しにくく、急な資金需要には使えません。
総量規制の範囲を超えて借りる前に考えたい3つのこと
ここまで見てきて、事業用資金として認められるか対象外の機関を活用したら際限なく借入ができるように感じる人もいることでしょう。
無理な借入希望は審査で落とされるはずですが、何かの拍子に通過できてしまう可能性はなきにしもあらずです。資金ショートを防ぐために考えたい3つのことをおさらいしましょう。
余裕を持った資金計画をたてること
まず、余裕を持った資金計画を建てて過剰な借入を防ぐことです。短期的視点・長期的視点に従って経営を「見える化」しましょう。
個人でビジネスを行っている人は無理な見通しに「待った」をかけてくれる人がいないことから、行き当たりばったりの計画になりがちです。
市場予測をもとにした売上目標を設定、売上目標から予測される原価や経費を計算して、シミュレーションしてみましょう。
ここまでをきちんと行ったうえで売上3割減になっても資金不足にならない状態にしておくことが望ましいとされています。
資金準備の方法としては、利益の一部を運転資金の補填として溜めておいたり、事業を開始する際の手もと現金を厚くしたりする方法が選択肢です。
ローン返済額は営業収支の範囲に納めること
ローン返済額は本業で得られる利益の範囲に納めることが収支を安定させるポイントです。売上 – 売上原価 – 経費等(給料や支払い利息)がプラスになる状態を維持して、過剰な借入を抑制しましょう。
一時的に大きな出費があって計算式がマイナスになるくらいなら取り戻すことはできても、お金が残らない状況が慢性化すれば、経営は傾きます。
新規事業に必要な投資を行う際には、計算式がプラスになっていることが条件です。今の状態でも利益が出ていないのに借入を増やして支払い利息が高くなると、損失が大きくなる一方になってしまいます。
借入頼みの経営を続けていれば、いつまで経ってもビジネスが安定しません。総量規制という絶対的な上限がなくても、計画的な利用を守りましょう。
不要な事業用資産売却を検討すること
今まさに緊急にお金が必要で借入を検討している場合、その場を乗り切ることが最優先事項になってきます。資金ショート目前の状態では銀行の融資も期待できず、ノンバンクの事業ローンに頼るしかなくなってしまうことも出てくるものです。
事業ローンでお金を借りて一定期間の営業を継続できればお金が入ってくる状況なら良いのですが、入金の目処がないのに借入を行っても、綱渡りになってしまいます。
シンプルな資金調達手段として不要な事業用資産を売却、お金に変える方法も考えてみましょう。
売却できる事業用資産の候補として、使っていない社用車や税金対策で購入した高価な備品、倉庫に眠っている在庫などが考えられます。
広い意味では売掛債権も資産の一部ですから、ファクタリング会社に売却する方法も一案でしょう。事業ローンとは違って保有資産を現金化することになり、将来的な支払い利息は発生しません。
長期的には家賃が低い事務所に引っ越す、交際費を制限するなど、収支を安定させるための経費削減も検討します。その場しのぎの対策ではなく、根本的な経営体質の見直しを考えてみましょう。
事業ローンは計画的に利用しよう
まとめると、銀行や日本政策金融公庫からの資金調達は総量規制の対象外、ノンバンクの事業ローンについても事業用資金としての条件を満たすことで対象外です。対象外になることで、上限の法的な縛りを気にせずに利用することもできます。
裏を返すと、法律が借入をセーブしてくれない分だけ、計画的な利用をしないと危険です。返済できなくなってしまうと、ビジネスが立ち行かなくなるばかりか、個人の生活にも関わります。
会社が倒産したからお手上げ、という理屈は通じず、経営者として連帯保証人になっているケースでは、個人的な貯蓄や不動産を取り上げられるリスクがあることを理解しましょう。
個人事業主、中小企業の経営者にとっては、ビジネスの成功が安定した生活に直結します。家族にまで迷惑をかけないためにも、よく考えて事業ローンを活用しましょう。